15年くらい前の話。
後藤のおじいちゃんは毎週日曜日の夕方に来ていた。
年の頃は70代後半〜80歳くらい。
ずんぐりむっくりした体型で丸い顔に平たい離れ目。
シワがきざまれた顔はまさしくヨーダ。
ジェダイマスター・ヨーダによく似ていた。
後藤のおじいちゃんは必ず決まってカツカレーを召し上がっていた。
しかも辛さ4番(超激辛)。
食べている途中でライスを1/3くらいタッパに詰める。
丁寧にビニール袋に入れた小さいタッパに、几帳面にライスを1/3だけ詰める。
きっと夜食か明日の朝食か。
後藤のおじいちゃんのルーティンなんだろう。
ちょっとだけルーのついた白いご飯、確かに美味しいもんね。
まぁ正直、お店としてはお持ち帰りはご遠慮いただきたいんだけど、そこはスタッフ全員目を瞑っていた。
というのも、後藤のおじいちゃんは毎回必ず百円玉を大量に持ってきてくれるのだ。
大体いっつも50枚は持ってきてくれる。
それを両替してくれる。
両替が有料になった昨今、お店側としては大変助かるのである。
後藤のおじいちゃんは、カツカレー890円分(当時の価格)をすべて小銭で準備し、さらに大量の百円玉をレジで渡してくれた。
わたしたちスタッフはそれをきっちり数えて「今日は○枚ありました」って、お札と交換する。
それが毎週日曜日の夕方の光景。
後藤のおじいちゃんはかなりきっちり几帳面な性格だった。
カレー用と両替用で入れ物を分けていて、スタンプカードも毎回丁寧にカードケースから取り出してくれる。
ちなみに小銭が入っている入れ物はなぜか女性向け雑誌の付録のポーチだった。
たまに新しい付録のポーチに変わってたりするので、わたしは勝手に「お孫さんにもらうのかしら」なんて思っていた。
そして、ご自分のことはあまり語らなかった。
どこに住んでいて、どんな暮らしをしていて、家族はこうで、こんな持病があって・・・
お年寄りはこういう話をしたがる。
接客業が長いとそれはもう普通のことで、こちらとしても聞く耳の受け入れ態勢は整っているわけだけど、毎週会っているはずの後藤のおじいちゃんに関しては何も知らなかった。
唯一、お店に来る理由だけは教えてもらった。
当時お店の近所にあったとある医療施設のボランティアに毎週参加していた。
ボランティアの活動を終えて、うちのカツカレーを食べて、両替して、バスに乗って帰る。
これが後藤のおじいちゃんのルーティンだった。
わたしたちは何かお礼がしたいと常日頃から考えていた。
とは言え、カレー代を安くするとか、無料にするとか、そういうことは求められていないことは分かっていた。
というかそれをしてしまうと、きっと後藤のおじいちゃんは来にくくなってしまうだろうことが分かっていた。
月曜から土曜にかけて百円玉を貯めて、行きつけのカレー屋さんで両替することは後藤のおじいちゃんにとっては毎週日曜のボランティア活動の延長線上で、対価を求めてやっている行為ではないのだ。
でも何かお礼がしたい。
わたしたちは月に一度くらいのペースで、季節のラッシーをサービスしていた。
「いつも本当にありがとうございます」って。
後藤のおじいちゃんは「いやいやいいのに」なんて言いながら美味しそうにラッシーを飲んでくれて、そのようすにこちらとしても少なからずお礼が出来た、とほっとしていた。
お店のママさんとマスターが年に一度旅行した際にはお土産を渡していた。
その地域の民芸品のお箸とか小銭入れとか。
後藤のおじいちゃんはそれも「いやいやいいのに」って言いながら受け取ってくれた。
日曜の夕方は、お昼のラッシュを終えてまかないをかき込んで、そして翌日の仕込みの準備をしている時間。まさにスタッフたちにとっては疲労がピークだ。
でも後藤のおじいちゃんとのこの心地いいやりとりで「夜の営業も頑張ろう!」って思えていた。
それから少しして、後藤のおじいちゃんがボランティアに通っていた医療施設が移転し、とても徒歩ではお店に寄れない距離になってしまった。
「近くに来たらまた寄ってくださいね」って見送って、それ以来後藤のおじいちゃんには会っていない。
あれから13年近く経つ。
お店も立ち退きで閉店し、今ではコインパーキングになってしまった。
後藤のおじいちゃん、どうされているかな。
年齢も年齢だから、もしかしたら…という思いもありつつ、どうか元気で過ごされてますようにと願わずにはいられない。
お客様は神様じゃない
って、いつからか言われるようになったけど、わたしは「神様みたいなお客様はいる」ってことを知っている。
その中の一人が、後藤のおじいちゃんだった。
お店とお客様の関係性って不思議だ。
毎週会っているのに、話しているのに、なんなら同じ釜のライスを食べているのに(!)、
お客様が来店されなければ、そこで関係性はおしまいなのだ。
後藤のおじいちゃんなんて当時は自分の祖父母よりも会ってお話していた。
でも今となってはどこのどなただったかすら、分からない。
まさにお店とお客様の関係性は一期一会。
もう2度と後藤のおじいちゃんに会うことはないんだろうけど、わたしの中で「こうありたい」と思える人の一人であることは間違いない。
丁寧に、誰かのために、自分のお気に入りを、自分のペースで。
そんなことを、最近スターウォーズの新作予告を見て思い出したのでありました。
May the Force be with you.
うーんやっぱり後藤のおじいちゃんはフォースの使い手だったんだろうなー。
(我が家にはヨーダのフィギュアがなかったので、同じ種族のグローグーがサムネイルになりました)