「スパイスと会話できる」と言うとなんかスピリチュアル系な話ぽいですが…笑
別にスパイスが喋りかけてくるわけでも、特別な能力があるという話でもありません!
ただ、わたしが長い時間カレーやスパイスと向き合ってきた中で、言葉になる前に分かってしまう感覚があって、それをどう表現するか考えたとき、いちばん近かったのが「会話」でした。
いつのまにか「カレー屋さんの娘」だった
わたしの実家は、「札幌カリーぱお」というカレー屋さんでした。
中学校1年生のときにお店がオープンして、母がやっていたお店です。
姉は高校生になってからアルバイトとしてお店に入っていて、
「ケータイ代は自分で払う約束」のもと、わたしも流れ的にというか必然的に、同じ道をたどることになりました(笑)
「実家が飲食店」というと、将来は継ぐつもりで!
みたいなイメージを持たれることもあるんですけど、正直、そういう意識はほとんどなかったと思います。
ただ家にお店があって、
家族がそこで働いていて、
そこに入るのが一番自然だった、という感じです。

半強制、カレー屋さんのバイト
中学校3年生の卒業式が終わった、たしか翌日かそのあたりから、
わたしは実家のカレー屋さんでアルバイトを始めました。
もちろん人生で最初のアルバイト!
当時の私は、思春期真っ只中ということもあり結構な人見知りで、大人と話すのも苦手で、
お札を受け取る手が震えるくらい緊張していました…!(本当ですよ〜笑)
「将来どうなりたいか」とか
「どんな人間なのか」とか、
そういうことも全然分からない時期で、
正直、アイデンティティなんて言葉も遠い存在でした。
でも、他のアルバイトを選ぶという選択肢もなくて、
ひたすらカレーを運んで、
メニューを覚えて、
接客をして、
目の前の仕事を一生懸命こなしていました。

特別に、カレーやスパイスが好きだったわけではない
ここでよく誤解されるんですが、
当時のわたしは、特別にカレーが好きだったわけでも、
スパイスが大好きだったわけでもありません。
(あ、食べるのは大好きでしたよ?笑)
ただ、環境として、スパイスが身近にあったんです。
母がカレー屋をやっていたので、
家にはスパイスの本がたくさんありました。
スパイスの名前や、ざっくりした効能、
どういう料理に使うか、ということも、
「勉強した」というより、
なんとなく知っている、という感覚でした。
中学生の頃、夏休みの自由研究で
スパイス辞典みたいなものを作ったこともあります。
といっても、家にあった本を参考にした焼き直しみたいなもので、
すごく凝ったものではありません。
それでも、今振り返ると、
私は小さい頃から、割とスパイスに囲まれて生きてきたんだなと思います。

アルバイトから正社員へ
高校を卒業すると同時に、当時札幌に巻き起こっていた「スープカレーブーム」に背中を押される形で、わたしはそのまま実家のカレー屋さんに就職しました。
アルバイトから社員になる、という変化は、想像していた以上に大きかったです。
今までは「できる範囲で手伝う」立場だったのが、
急に「お店を回す側」になった感覚がありました。
失敗しても誰かがフォローしてくれる、という余白がなくなって、
自分がやらなければ、そのままお店に影響が出る。
飲食の世界にちゃんと足を踏み入れたのはこの頃だったと思います。
目の前のお客様を食事で満足させること。
価値を提供してお金をいただくこと。
このあたりからよーやく自覚が出てきました。

厚真での炊き出しのようす。
このとき地域の方にすごく喜んでいただけたことが今でもわたしの原動力の一部です。
毎日の調合と在庫管理で、スパイスを覚えていった
仕事の中で、必然的にスパイスの調合をするようになりました。
カレーの仕込みのために決まった分量のスパイスを量って、混ぜていく。
作業としては、とてもシンプルです。
それと同時に、
どのスパイスがどれくらい減っているか、
どのタイミングで発注をかけるか、
そういった在庫管理も、若い頃から任されていました。
最初は、
「これはこういう作業だから」
「これはこう決まっているから」
という感じで、理由までは深く考えていなかったと思います。
でも、同じ作業を何度も何度も繰り返すうちに、
少しずつ感覚が変わってきました。
このスパイスは、こんな香りなんだな、とか。
これが入ると、全体がこう動くんだな、とか。
本を読んで知識として覚える、というより、
手と鼻で覚えていく感じでした。
使っていたスパイスの種類も多くてメジャーなものだけじゃなくかなりマイナーなスパイスまで扱っていました。
気づいたら、それぞれのスパイスが、
頭の中でなんとなく整理されている状態になっていました。

スパイスを誰かの台所に渡す仕事
お店では、カレーを出すだけじゃなくて、レジの横でスパイスの小売販売もしていました。
袋に入ったスパイスが並んでいて、お客さんがそれを手に取って、
「これ、どうやって使うんですか?」と聞いてくる。
ホールに立っていると、
そういう質問を受けることが本当に多かったのです。
最初の頃は、事前に頭に入れていた知識や決まったトークスクリプトを使って答えていました。
でも、質問の内容は毎回少しずつ違っていて、
「何を作りたいのか」
「どんな味が好きなのか」
「普段どんな料理をするのか」
そこを聞かないと、ちゃんと答えられないことも多かった。
そうやって話を聞きながら、
頭の中でスパイスを一つひとつ思い浮かべて、
「あ、これは今この人に合いそうだな」と考える。
スパイスは、
ただの材料じゃなくて、
誰かの生活に入っていくものなんだ、
と実感し始めたのは、この頃だったと思います。

知識より先に、感覚が出てくるように
調合、在庫管理、販売、説明。
毎日、スパイスのことばかり考えている環境にいると、少しずつ変化が出てきました。
レシピを見なくても、香りを嗅いだだけで
「今日はこれが強いな」と分かるようになったり、
仕込みをしていて「何かが足りない」と感じたり。
頭の中で考えているというより、先に感覚が出てくる、という感じです。
それでも当時のわたしは、それが特別なことだとは思っていませんでした。
15歳から生活の一部としてスパイスに触れ続けてきたので、
「できて当たり前」だと思っていたんだと思います。
スパイスを嗅ぎ分けることも、料理にどう活かすか考えることも、全部、日常の延長でした。
今振り返ると、その「当たり前」が、
かなり濃い時間だったんだなと思います。

カレー屋を辞めてから、初めて見えたもの
2023年11月の立退による閉店。
その頃にはわたしはカレー屋さん暦20年を超えていました。
そんなわたしがカレー屋さんで働くことを辞めて、スパイスから少し距離のある生活をするようになってから、初めて気づいたことがありました。
今まで自分がやってきたことは
誰でもできることじゃなかったんだ、
ということです。
スパイスの香りを嗅いで、
「これが足りない」と分かること。
体調や気分に合わせて、
自然と使うスパイスを変えていたこと。
それは才能というより、
15歳から毎日のように向き合ってきた結果でした。
ずっと当たり前だと思っていた感覚が、
外に出てみて初めて、
「経験の塊だった」と分かりました。

「スパイスと会話できる」という感覚
スパイスと会話できる、というと、やっぱり少し抽象的に聞こえると思います。
でも、私にとっては、いちばん近い表現でした。
スパイスを前にすると、
「今日はこれじゃないな」とか、
「もう少しこっちだな」とか、
言葉になる前に分かることがある。
考えて選んでいるというより、
反応している、という感覚に近いかもしれません。
それを無理に言い換えるより、
「会話している」と言った方が、
しっくりきました。

とらのいスパイスを始めた理由
とらのいスパイスを始めたのは、この感覚を自分の中だけに置いておくのをやめようと思ったからです。
15歳から生活の一部としてスパイスと向き合い続けて、気づいたら20年以上が経っていました。
特別な人だけのものじゃなくて、スパイスがもっと生活の近くにある存在であってほしい。
体調が悪いとき、
気分を切り替えたいとき、
料理を少し楽しくしたいとき。
迷わず、「これで大丈夫」と思えるスパイスを届けたいと思いました。

おわりに
スパイスは思っているよりずっと自由です。
きっちり量らなくてもいいし、これだっていう正解がひとつあるわけでもない。
他のスパイスや材料と混ざり合いながら、そのときどきで違う表情を見せてくれます。
難しそうに見えるけれど実はとても懐が深い。
そんなスパイスをもっと気軽に、生活の中で使ってもらえたらと思っています。
わたしはそのためにとらのいスパイスをやっていきます🐯

今後も定期的に開催していきますよ〜